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5年間の母の介護は辛く大変だったが、
娘からもたくさんの感動をもらった

第6回:河村都氏

河村都さん高田:子育てしながら長年働いてきて、一番大変だったな、という時期はどんなときでしたか?

河村:子育てで大変だったと思ったことは一度もないですね。だけど、5年間自分の母を引き取って面倒を見ましたから、それが私の人生の中では一番大変だったかな、と思いますね。

高田:それは体力的にも大変だったでしょうね。

河村:母が病気になり入退院を繰り返していたんです。でも、私は仕事を辞めませんでした。その当時、肉体的にも精神的にも本当に大変でしたね。母は古い人間だったので、なんでそこまでして働くの?と何度も言われました。

高田:でも辞めようとは思わなかったんですよね?

河村:一度も思いませんでしたね。でも、その時に強く思ったことは、介護も仕事もすべて頭でシビアに考えてやっていかなくてはいけない、と思いました。

高田:感情的にならずに、ということですか?

河村:そうです。母にとってよかったのかどうかわかりませんけど、お手伝いさんを頼んだりもしました。いろんなお手伝いさんがいらっしゃいますから、母と合う方と出会うまでにそこでも苦労しましたね。ですが、仕事とそういう問題は別かな、と思ったんです。

高田:お子さんは当時高校生でしたよね。年ごろですし、受験とかで大変だったのでは?

河村:お手伝いさんを頼んだりもしましたけど、でもやっぱりお母さんが社会で働いていて、並行しながら自分の母親のことを一生懸命面倒を見ているということを子供に見せてあげることは大事なことなんですよ。まさに教育の原点なのではないでしょうか。

娘が自分を超えた瞬間

高田:その時はお嬢さんも介護を手伝ってくれたんですか?

河村:すごく理解してくれたし、いろいろ手伝ってくれました。逆に介護を通して娘からもたくさんの感動をもらいました。

高田:具体的にはどんなことですか?

河村:例えば入院中のある日、母が嬉しそうに言ったんです。「あきちゃん(娘)がくると、食事のあとにうがいをさせてくれて、入れ歯もとってそれを全部洗ってくれるの。もうすごく上手いのよ。」と。それを聞いてもうびっくりしたんです。自分の娘にはそういうことはさせたくなかった。自宅に帰ってから、娘にそこまでしなくていいよ、と伝えたんです。そしたら、「なんで?なんで入れ歯が汚いの? だって私たちと同じものを食べてそれがついているだけだよ。お母さんは汚いと思っていたの?」と。

高田:わー、すごい! まさかそんな返答が戻ってくるとは思わなかったでしょうね。

河村:ものすごーいショックを受けたんですよ。私は平静な顔を装いながら「あらそうだったの、あなたがそんな風に思っていたならそれでいいんだけど。」って答えたんですけど、娘が自分を超えたな、と思った瞬間でしたね。

高田:お嬢さん、素晴らしいですね! おばあさまのことを本当に大切に思ってらしたんですね。

河村:だから、教育って、こういうことなんじゃないかな、って思ったんです。

高田:いいお話ですね。入院している祖母を思い出しちゃいました。。。

母の主治医の先生の言葉に救われた

河村:私は会社ではいつも明るくて、元気な人でしたし、プライベートのことは一切会社では話しませんでしたので、家で母の介護で大変な思いをしていることはスタッフの誰も知りませんでした。

高田:そうだったんですか。。

河村:でもね、人間って、必ず救われることがあるんです。母は日赤病院に入院していたんですが、N先生という母が大好きな主治医の先生が最後まで診てくださったんです。いつも相談にものってくださいました。「いつも病院に行ける訳ではないので、こんなに仕事ばかりしていていいんですかね?」と相談したことがありました。仕事ばかりしていたので、ちょっと後ろめたさがあったんでしょうね。突然危篤状態になったとしても、駆けつけることはできない状態でしたから、娘としては失格ですよね、と。

高田:N先生は何とおっしゃったんですか?

河村:人間というのは生きているときが一番大切だ。お母さんがしっかり元気に生きている間にどれだけあなたがやってあげたのか、どれだけお母さんの心に残るようにしてあげたのか、それが大事なんです。臨終に間に合うかどうかなんて、そんなことは何にも問題ない、と。病院にいるときは私やスタッフに任せてください。あなたが輝いて頑張っている姿を一番お母さんは望んでいますから、と。その言葉にはホントにすごく救われましたね。

高田:うわー、心に響きますね。

河村:先生が、あなたは病院に来る時間が短いかもしれないけど、お母さんを思う気持ちが強いことは私にも十分に伝わってきます。それと、お嬢様もよく来ていらっしゃる。病人を思う気持ちは時間ではなく“深さ”なんです。私たちは病院でいろんな方々をみてきましたが、普段何にもしないのに死ぬ間際になって、一度もきたことのない親戚中で集まったりする。人間なんて、死ぬ時は誰も来なくたっていいんですよ。一人で死んで行くものなんです、と。

高田:ちょっと胸がつまりますね。

河村:もう先生の言葉には、ものすごーく救われました、ホントに。

高田:負い目を感じるなか、気持ち的にもちょっと楽になったのでしょうね。娘さんも協力してくれましたしね。

河村:娘は普段ご飯作ったりとか、手伝いとかしませんが、大事なときに助けてくれた。それでいいと思いましたね。

高田:大変なときのサポートでしたから、本当に助かりましたね。

河村:正直言って、私だけが母の面倒を診ているという思いもあり、他の人にそれを求めたり愚痴をこぼしたときがあったんです。そのとき娘が言ったんです。「お母さん、人がどう思おうが、人が何をしていようが、そんなことは関係ないでしょ。私たちが一生懸命やれば、それでいいのよ。お母さんが行けないときは、私が行くから。」と。

高田:立派なお嬢様ですね。

河村:勉強ができなくても、こういうことがわかる人間であればそれで十分だ、と思いました。だから、そういうことも含めて今子育てしているお母さん方に教えてあげたい。教科書で学べるものはいつでもできるもの。そういう形で見えるものでなく、形で見えない大事な教育がある。形で見えない教育の方がずっと大切なことだっていうことが、年齢を重ねるとよくわかるようになるんです。

高田:こういうことは絶対に教科書から学べませんね。「形で見えない大事な教育」、経験、親子のコミュニケーション、人間関係などから生まれてくるものなんですね。

河村:もし私が母の立場だったら、娘が自分の仕事を全部捨てて私の介護をしてくれたとしても、でも私は先に死んでいく身です。娘は仕事も辞めちゃったし、その後どうなっちゃうの?って考えたら、あなたの自分の道はちゃんとキープしなさい、って言うだろうな、と思ったんです。

高田:病院でN先生に言われたことは大きかったですね。

河村:だから世の中一生懸命やっていると助けてくれたり、守ってくれる人が絶対に現れるんですよ。

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